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Column - Saika

2016/2017 冬 霜柱

近くの小学生が騒いでいて目が覚めたのだが、まだ日も昇りきらない早朝であった。前日は日が変る頃まで調べ物をしていたために、ゆっくりと眠ろうと思っていた折のことである。いささか気分を害されながら窓を開けると、途端に冷え冷えとした風が舞い込んできた。

冬になったことは空気からも暦からも知っていたが、ここまで冷え込んでくるとは思いもしていなかった。

小学生らは路地に居るらしく、窓からは姿は見えない。ガラスの窓を閉め切った部屋から声が聞こえる程であったので、今度ははっきりと言葉が読めるようになる。

「ほら、しゃり、ゆうてるわ」

「みっちゃんとこの、まだゆうで」

「えー、ここらへんかな」

「あ、ゆうたゆうた!」

何か音を追っているようである。はて、そのように珍しい音とは何であろうかと気になりはじめ、寒さですっかり目が冴えてしまったのを好都合に、暖かく着こんで外へ出ることにした。

路地へ向かうと、まだ小学生らは戯れているらしい。よくもまあ飽きずに早朝から、と踏み出したところ、しゃり、という音がした。

「あ、しゃりゆうた」

一人の少女が笑いながら、私の横を駆け抜ける。

「ここも、いっぱい残ってるわ」

もう一歩足を出せば、また小気味良い音が響いた。霜柱が立っているようで、子供たちはこの霜の音を楽しんでいたのである。

店の前に行くと、八ッ橋屋が子供と同じように土を踏んでいるので、笑いそうになってしまった。私に気付くと、男も決まり悪そうに笑顔を見せる。

「音が楽しくなったんですわ」

「わかります」

私も、自分の周囲をひととおり踏み荒らしてみた。確かに、踏み出すと楽しくなってきている。童心に戻る、とはこれを言うのであろう。

そのまま、二人で店先の霜を踏み荒らしていると、先の小学生らが駆けてきた。何を今度は騒いでいるのかと思うと、私たちを見て面白がっているのである。途中でやめるわけにもいかず、小学生らも交えて霜の音を楽しんでみた。

音が無くなる頃には、すっかり眠気も寒さもとんでしまっている。