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Column - Saika

2014/2015 初秋 流星

 窓に吊るした風鈴の音が、夜になると寒そうに鳴った。

 こんなに冷えてきていたのか、と思い日を数えれば、もう九月に入っている。慌てて風鈴を仕舞い込んでいると突然、わっと子供たちの歓声が聴こえて驚いた。

 まさか、私の遅い秋支度を笑っているわけではあるまい。暫く耳を澄ましていたが、また少し経つと声があがった。どうにも気になり、このままでは本も読み進められないと、様子を見に行くことにした。

 角を曲がれば、何人かの子供たちがじっとひとところを見て立ち止まっている。その真ん中に松村が立っているのに驚いた。

 「何をしているのだ。子供らに、おかしなことでも吹き込んでいるのではないか」

 近づくと、私を訪ねるところだったという。手提げから上等の酒が見えていることをみれば、何処ぞで手に入れて、私と一杯やろうと思ったのだろう。

 「おかしなこととは、人聞きが悪い」

 にやりと松村が笑ってこちらを向くと、また歓声があがった。

 「しまった、見落としたな」

 「何を見ているのだ」

 見ればわかる、と私に空の方を指す。そこにはただ夜の闇と星があった。星の数が多く、秋らしくなっているものだと改めて気づかされる。

 と、光が尾を引きながら滑って行った。どっと、子供たちが声をあげる。

 「流れ星か」

 「そうだ。見えると願いがかなうと教えてやったら、みな喜んで見つけている」

 やはりおかしなことを吹き込んでいるではないか、と茶化すと、松村は真面目な顔をする。

 「本当にかなうのだ。うまい酒が飲みたいなと思って願ったら、世話になっている教授が中元が余ったと持ってきてくれた。研究室で大声で願った甲斐があった」

 聞けば同じ手で八ッ橋屋からも、先ほどつまみの八ッ橋をまきあげたらしい。さあ、飲もう、と屈託無く言うものだから、吹き出してしまった。

 そうしているうちにも、何度か歓声があがっている。街中では星も見えづらくなってきたが、このあたりはまだ灯が少ないらしい。見上げるとちょうど、光がまた滑っていった。今夜もうまい酒になると良い、と呟くと、それは願いではなく決まっていることだと笑われた。