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Column - Saika

2014/2015 冬 オリオン

久方ぶりの親戚たちが京都に来るというので、酒を飲みに付き合わされた。親戚といえども殆ど互いのことをよく知らない遠縁で、要するに道案内と賑やかしに借り出されたようなものである。

付き合いの酒席など得意では無いので、適度に嗜んだ後に早々と退席をした。そのようなわけで、珍しく夜遅くに川沿いを歩くこととなった。

酒を入れた為かあまり寒さを感じなかったのであるが、やはり酔いも覚めてくる頃、一気に肌寒くなってきた。これは無理をせずに電車を使っていれば良かったかと後悔したが、もう終電は過ぎている。

冬の鴨川というのは、他の季節とはまた全く別の表情を持っている。夏には子供たちが水浴びをするような川であるというのに、冬ともなれば黒く深く、ごうごうと音をたてて流れるのだ。怖ろしいような眺めだと、丸太町の橋より下を見て身震いをした。

ふと草むらが動いたかと見ると、にゃあ、とか細い声が聞こえてきた。このところ捨て猫が増えているという。音を辿り目を凝らすと、闇に白い姿があった。

「にゃあ」

思わず愛らしく、誰も居ないことを良いことにして、鳴き真似をして見せた。

「にゃあ」

同属ならば寄って来るかと真似ながら近づいたのだが、途端に猫は黙り、空を見る。簡単に見破られてしまっていた。

仕方が無いので、少し離れた傍に腰をおろした。慣れているようで、動じることなく上を見ている。やはりもとは飼い猫であったのだろうと、少し心苦しくなった。

私と猫の頭上には、三連の星が並んでいた。冬の夜歩くことの無くなっていた私には、懐かしいオリオンである。

お前も見ているのか、と猫を眺めると、先ほどからずっとオリオンを眺めたまま目を逸らしていないのだということを知った。

この寒空、さぞかし辛いであろうと手を伸ばす。生き物好きな例の八ッ橋屋ならば預かってくれるのでは無いか、と思ったのだ。

すると、猫は毅然とした態度で突如爪を私の手の甲にたてたかと思うと、飛び上がって姿を消した。立派なものである。自分の浅はかさを指摘されたかのような気になり、大の字になってオリオンを明け方まで眺め続けた。

やはり、少しまだ酔っていたのだと思う。